広場の噴水に腰掛けながら空を見上げる。
千切れた綿菓子みたいな雲達の数は
あたしのため息の回数と一緒だな、なんて思いながら。
「叩いちゃったのは、よくないなぁ」
「モーゼスくん、びっくりしたかな…」
自分の不器用な勇気の結果に落ち込んで
「でも、あの人ってば、鈍感…」
彼の鈍感さに責任転換をしてみるけれど
やっぱり自分の空回りが悪かったと、更に落ち込む。
そんなわたしの頭を撫でるようにハート型の雲が空を泳ぐ。
それを追って体を後ろへと引っ張った。
「危ない!」
左腕をつかむパシンという掴む音。
「チャバさんだ」
「もー、こんな寒い日に水浴びしたいの?」
「水浴びは…、ちょっと、いやかな」
お母さんの様にやんわりと叱るチャバさん。
何が危なかったのかと思ったけど
すぐに自分が噴水に落ちそうだった事に気付く。
「ありがとう、あと、こんにちは」
「あはは、こんにちは」
のんびりとした挨拶を交わしながら
チャバさんはあたしの体制を戻し、横に座った。
「ボーっとして、何か悩み事?」
「うん、悩みって言うか…」
「アニキの事だ」
心が読まれたのかと思い、目を見開く。
そんなあたしを見てチャバさんは
困ったような温かいような苦笑顔を見せる。
「アニキもちゃんみたいな顔していたから」
チャバさんは「よっ」と勢いよく立ちあがり
空に向かって腕を気持ちよさそうに伸ばし
空色に負けないさわやかな笑顔をこちらに向けた。
「ちゃん、この後予定ある?」
質問に首を横に振って答えた後に
今度は左に傾ける事で「どうして?」と聞く。
「元気のない子に、プレゼントをあげるよ」
そう言って彼は「おいで」と手招きをする。
あたしの言葉の無い会話に対して
自然に答えてくれたことにびっくりした。
だって、モーゼスくんだったらきっと
「面白い動きじゃの!」で終わるから。
心の中で不満を密かに爆発させながら
少し前を歩くチャバさんの背中を追った。
景色は街中、外の平原、山道と続く。
その間チャバさんは一言も喋らないので
あたしも大人しく付いて行った。
その沈黙も、歩く速さもなんだか心地が良い。
「着いた!」
チャバさんの声を合図に
彼の背中だけを見ていた視線を上げて
自分が到着した場所を瞳一杯に入れる。
「わぁ…」
そこは海だけを見渡せる小さな丘。
夕暮れを告げるオレンジに染まった海は
ダイヤモンドの欠片達を散りばめたみたいに
キラキラと輝きながら静かに歌う。
「ここから見る海が遺跡船で一番綺麗なんだ」
「ほんと、綺麗、だいだいの星空みたい…」
自然と出た年相応ではない夢見がちな言葉に
チャバくんは笑う事無く頷いた。
「ほら、くるよ」
まるで子守りをするように静かに呟く彼。
「何が?」と聞こうとしたけれど
次の瞬間、その必要は無くなった。
星達が目を覚まし始め
夜の紫が夕暮れのだいだいに触る。
すると空はまるで初恋の色のような
淡くて甘い桃色に染まった。
「マジックタイムって言うんだ」
少年の様な瞳に空を映すチャバさん。
キラリと輝いたのは海の光か、彼の心か。
「名前の通り、魔法みたいなんだこの空は」
「悠々としてて、うっすら眩しくて」
「眺めていると気持ちが澄んでくる、
素直になれる気がするんだ」
少しだけ照れながら彼はそう言う。
「じゃあ、この空はチャバさんみたいだね」
そう思ったけど、言葉にするのは止めた。
「うん、…」
「ほんと、魔法みたい」
この魔法の時間が終わったら
「ありがとう」をチャバさんに言おう。
モーゼスくんには「ごめんね」と
大切な言葉を送ろう。
わたしの心に絡まった何かが
解けていく暖かさを感じた。
「放課後のwankend」
この魔法の時間が終わったらきっと
彼女は愛する人のもとに行くんだろう。
自分はそれを望みたくないけど
たしかに祈る事ができるんだ。
この優しい気持ちだけは
魔法のおかげじゃないと思いたい。
君を大切に思う自分の気持ちだと信じたい。
ああ、それでも、神様。
愛しい彼女と二人でいられるこの時間を
少しだけ、あと少しだけ自分にください。
魔法の時間が溶けてしまったら
このワガママを、くやしさを
海に返すと誓いますから。
2011/06/14
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